べっく日記

偏微分方程式を研究してるセミプロ研究者の日常

タックスヘイブンとは。

今日はゼミの準備が終わり,ドトールで競馬のラジオを聴きながらコーヒー飲んでいた.馬券は盛大に外したがゼミの準備が終わったので良しとしよう.

 

さて,最近外せない話題といえば「タックスヘイブン」である.事の発端は2015年の8月に南ドイツ新聞が匿名者から2.6TBの法律事務所関連文書を入手したことから始まる.約400人のジャーナリストがこの文書の分析に関わって,その分析が終わったのでつい先月(4月)で,なんやかんや騒がれ始めたのである.この秘密文書が「パナマ文書(パナマペーパー)」と呼ばれている.

 

このパナマペーパーでは,後に説明するオフショア会社に関する情報が書かれている.さらに,複数の政治家やその親族がそのオフショア会社と金銭的・権力的な関連が明らかになった.つまり,その方々はタックスヘイブンと呼ばれる租税回避地,すなわち税金がかからない地域に実体のないペーパーカンパニーを設立し,そこに資金を移動させ,脱税や節税を試みている,ということが(一応)明らかになった.これが世界中で大騒ぎになった原因である.実際,このパナマペーパーが原因でアイスランドの首相は辞任に追い込まれている.

 

しばらく経つと,この文書に中に政治家以外にエマ・ワトソン楽天の三木谷社長といった「有名」人が多数含まれているという報道があった.また,フランスの有名な経済学者ピケティ氏をはじめとする経済学者たちは「(タックスヘイブンは)一部の富裕層や多国籍企業を利するだけで,不平等を拡大させている」という公開書簡を発表し,タックスヘイブンの存在を盛大に批判していることが明らかになった.

 

私の記憶が正しければそれを契機に,多くの人が「タックスヘイブンは金持ちや巨大企業の合法的な脱税だ」とか「合法だからといって脱税していいのか」など様々な声が上がり,日本はまだだが,世界を見てみると,パナマ文書に名前が挙がっていた政治家を批判するデモが起きていたりと,今までタックスヘイブンの存在を知らなかった人でも「一度は聞いたことある言葉」になりつつある.

 

ただ,一連の報道を見る限り,少々ミスリードしている部分があるので,それを修正したいと思う.タックスヘイブンを批判している人に,なぜタックスヘイブンは存在するのか,ということを考えたことがあるのか,問いたい.

 

以下,

1-オフショアについて

2-CFC税制について

3-パナマ文書に対する誤解

の順に説明する.

 

《 1-オフショアについて 》

www.globalproperty.jp

によると,金融取引には3つの態様があって,それぞれ

-内内取引(取引者が両方とも国内)

-内外取引(取引者のうち一方が国内,他方が国外)

-外外取引(取引者が両方とも国外)

に分けられるようだ.このうち外外取引がオフショア取引と呼ばれる.残りの二つはオンショア取引という.

 

オフショア取引は取引者が両方とも国外なので,金融取引がおこなわれる場所(オフショア・センター)は「取引する場所」を提供しているわけ.もちろん,経済的合理性がなければ誰も使わないわけで,外外取引にはメリットがある.まず,「取引する場所」を提供している側(オフショア・センター)はその場所の提供料金なるものをもらうことができる.一方,取引者としてはオンショア取引ではできないことがオフショア取引では可能になったり,税に関しての優遇が得られるので,オフショア・センターにお金がとられるとしても十分にメリットがある.オフショア・センターがある地域がタックスヘイブン租税回避地)といわれるんだな.

 

つまり,オフショア取引は国境を越えたグローバルな金融取引を可能にし,また,国際的な資本の移動を促進していると言える.

 

オフショア・センターは規制がゆるいことで利益を確保している.日本のように「お役所仕事」をしていてはコストもかかるし,何より取引の足かせになってしまうからである.一方で規制がゆるい割には,機密性が高いことで知られる.スイスやシンガポールの銀行のようなイメージだ.そのため,マフィアのマネーロンダリングに使われたりする,違法行為の温床になっていた.

 

また,過激な「租税」競争は経済活動にゆがみをきたす可能性があることから,近年になって(主に2000年以降),OECD経済協力開発機構)はオフショア取引に規制をかけるようになり,違法性が疑われるような場合はきちんと情報開示できるになったようだ.

 

オフショア取引の合法的なメリットとして,二重課税の防止が挙げられる.また,オフショア取引の際にいろいろと面倒な手続きも省くことが可能である.一方,最近よく見る「タックスヘイブンを用いた合法的な脱法」は不法である.もちろん国会でも議論されている.インターネット上で国会の資料を発見したので,明示しておく.

 

< タックス・ヘイブンを利用した脱税及び租税回避行為への対策 >

http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2010pdf/20100901016.pdf

また,オフショア取引についての詳細はWikipedia参照のこと(一番よくまとまっている)

オフショア金融センター - Wikipedia

 

《 2-CFC税制について 》

CFC税制のCFCは“Controlled Foregin Company”の略で,CFC税制とはタックスヘイブン対策税制とも呼ばれる.

 

親会社が国外のタックスヘイブンペーパーカンパニーという形で(子)会社を作ることによって,親会社所在国での課税所得を減らすことが可能である.すなわち,本国に払うべき税金を減らすことが可能である.それに対抗するのがCFC税制である.

 

国によってこの税制は様々だが,日本の場合は財務省のホームページに詳細が書かれている.

 

www.mof.go.jp

www.mof.go.jp

 

まあ,ざっくりといえば,タックスヘイブンを利用して浮かせた税金はある程度はもらいますよ,みたいな話である.

 

この税制は各国で導入する方向で進んでいるらしい.

www.nikkei.com

 

ただ,驚くことに,この記事は去年のものなので,「タックスヘイブンの節税」に対する対策は本当に最近になって始まったばかりのようだ.今まで何をやっていたのだろうか...

 

《 3-パナマ文書に対する誤解》

さて,長い下準備が終了した.今までを要約すると

-A タックスヘイブンはグローバルな金融取引には必要

-B タックスヘイブンを利用した節税・脱税に対抗するCFC税制が導入される見通し

の2点である.

 

とすれば,多くの人は「パナマ文書」に対していろいろと誤解していたことに気づける.タックスヘイブンは必ずしも「一部の富裕層や多国籍企業を利するだけで,不平等を拡大させている」とはいえないことがわかる.

 

パナマ文書に対する誤解をよくまとめてあるツイートを発見したので,挙げておこう.

 

 

うん,とてもわかりやすい.

 

タックスヘイブンについては,議論の余地は大いにあるし,脱税行為は当然批判するべきであるが,タックスヘイブンの存在自体を批判する姿勢は如何なものなのかと思うわけ.つまり,一連の報道やテレビのワイドショー()を通じて,一般人であっても金融の「リテラシー」は必要なんだなと痛感した.無知は恥である.私は大学院生だが,すでに立派な社会人なので,もっと社会の仕組みについての勉強が必要なようだ.数学以外もしっかり勉強しよう.

 

また,以下の記事にて結構端的にタックスヘイブンについてまとめられている.

blogos.com

 

近年における世界経済のグローバル化を考慮すると,若いうちにオフショアに銀行口座をつくっておいて損はないのかな,と思ったりしちゃうけど,私の場合はまずはしっかりとした職をゲットすることが先ですな.