べっく日記

偏微分方程式を研究してるセミプロ研究者の日常

2018年の研究目標

いよいよ 2018年が始まりました.今年もよろしくお願いいたします.さて,「一年の計は元旦にあり」という言葉もあるように,ここでは昨年のの研究成果を振り返ると共に及び本年の研究目標を述べたいと思います.

 

《0. 昨年の研究成果》

Navier-Stokes-Korteweg 方程式を用いた,相転移を伴う圧縮・非圧縮粘性二相流の自由境界問題の定式化に成功した.これは従来の Navier-Stokes-Fourier 方程式系の拡張にあたる.特に圧縮性粘性流体の密度の空間変数についての正則性を改善できることを示した.この内容は修士論文としてまとめただけでなく,単著論文として J. Math. Fluid Mech. に掲載が決定した.また,この内容を学会などで発表した.

 また 10 月から 12 月までドイツの D 大学に派遣された.ポスドクの T 氏と共同で Lipschitz 外部領域における Stokes 方程式の研究に取り組んだ.これは S (2012) の有界領域における結果を外部領域に拡張するものである.試行錯誤を経て Stokes 半群の証明に成功した.

 

《1. 研究内容》

昨年の研究成果をもとに,本年は以下の課題に取り組む.

ーA. 相転移を伴う圧縮・非圧縮粘性二相流の自由境界問題の時間局所適切性.

ーB. 同上の問題の有界領域における時間大域適切性.

ーC. Lipschitz 外部領域の  H^\infty-calculus 及びその非線形問題の最大正則性.

ーD. Lipschitz 外部領域の境界が回転しているような問題の時間局所一意可解性.

 

《2. 研究の状況》

現時点において,研究内容 A は細かいところを除いて完成している.逆に言えば,まだ細かいところができていないということである.また,論文もその細かいところを除いて書けている.ただ,かなり長くなってしまった(いま 60 ページ)し,イントロももう少しブラッシュアップする必要があると思われる.一方で,研究内容 C については,昨年の研究成果にも書いたように,Stokes 半群の生成までは示せている.一応 K-W (2017)の論文のアイディアを適用すればその  H^\infty-calculus について証明できそうだが,このアイディアを外部領域の場合に拡張できるか確認中である.

 

《3. 研究方針・対処すべき課題》

研究内容 A 及び B については,既存の 1 相流に対する解析手法を応用する形で研究を進める.1 相流に対する解析手法はほとんど完成しているので,それらの論文の理解に努める.ただし,本研究では未知関数が従来よりも多いため,考えたい実補間空間などが直積集合になる.そのため,従来と「同様に」実補間空間考えることが難しくなることが予想され,詳細な考察が求められることが予想される.必要に応じて補間空間論を勉強する.

 研究内容 C については,共同研究者である T 氏が 1 月上旬に来日する予定なので,そのときに可能な限り議論する.またその議論をもとに論文を仕上げる.また,この結果をもとに研究内容 D にも取り組む.ホームページにもあるように,私は本年の 5 月に訪独する予定なので,そこで研究内容 D について可能な限り議論する.

 本年の 9 月から 12 月までイギリスの I 大学に(ありがたいことに!)派遣されることが予定されている.充実した議論をするためにも,英語によるコミュニケーション能力の向上,特に語彙力とリスニング能力の向上は対処すべき課題である.

 現時点では学振 DC1 特別研究員について「補欠採用」ではあるが,採用内定の可能性はとても低い.そのため本年は学振 DC2 特別研究員に応募する必要がある(可能性が極めて高い).先程の研究の状況を踏まえて,この応募〆切である 5 月までに論文を 2 本完成させて投稿することを目指す.

 

《4. 研究を進める上でのリスク》

ーI. 相転移を伴う圧縮・非圧縮粘性二相流の自由境界問題のモデルを信じてもらえず,そのために研究に興味をもってもらえないリスク.

興味をもってもらえるよう,研究発表を行うだけでなく,論文の解説記事をホームページに掲載するようにする.特に,物理的な説明や,従来用いられてきた diffuse interface model との関連などを詳しく説明するようにする.このモデルは「絶対に」物理的に正しいので,信じてもらえない人には納得してもらえるよう繰り返し説明する.

 

ーII. 研究内容 A 及び B において,計算量が膨大になり,研究計画に支障が出るリスク.

境界条件を Dirichlet 境界条件にしたり,自由境界を球面や平面からの摂動として考えられるような場合に限定することで計算量を減らす.

 

ーIII. 講義の受講やその課題,研究発表の準備などにより研究時間が(少なからず)制限されるリスク.

スケジュールの管理をしっかりやることで,研究時間を確保する.また,移動中に研究ができるよう,ダウンロードした論文や執筆中の論文などを定期的に Dropbox にバックアップを取る.また,課題や研究発表の準備は時間を決めて取り組むようにする.

 

ーIV. 投稿した論文がリジェクトされるリスク.

大学で時々開催される論文の書き方講座への参加や,「質の高い」論文の書き方を勉強することで,アクセプトされるような論文の書き方を学ぶようにする.それに加えて,適切なジャーナルに投稿することでリジェクトのリスクを下げることに努める.

 

ーV. 論文執筆に時間がかかり,そのために研究が進まないリスク.

論文の執筆に時間がかかりすぎないよう,研究が少し進んだら LaTeX でまとめるようにする.また,論文を書き直す手間を省くため,論文の構成が決まってから論文を書くようにする.それに加えて,論文を執筆する時間を決めることで集中して執筆できるようにし,執筆時間の短縮に努める.

 

ーVI. 参考にする論文を理解できないリスク.

論文を理解できないときは,一人で考え込まないようにする.どうしても理解できないときはとりあえずあきらめて次のことを考えるようにする.可能であれば著者に質問メールを送る.

 

ーVII. 体調を崩し,研究が進まないリスク.

体調管理には十分気をつける.特に帰宅時には,引き続き手洗いとうがいをするようにする.また,運動不足に起因する生活習慣病を防ぐため,定期的に運動するよう努める.

 

ーVIII. 勉強に夢中になり,研究が進まないリスク.

研究に必要で,すぐに役に立つものだけを勉強するようにする.そうでないものの勉強の優先順位は下げるよう努め,研究を優先する.研究に一区切りがついたら,集中して勉強するようにする.また,勉強したものは LaTeX でまとめることで繰り返し勉強することを防ぐ.また,なるべく研究集会などに参加することで,勉強する手間を省くようにする.

 

本年は昨年よりも仕事の量が増えると思います.年間スローガンは「know」で頑張りたいと思います.

 

2018年1月1日

渡邊