べっく日記

偏微分方程式を研究してるセミプロ研究者の日常

研究進捗2019/06/20

研究進捗を2ヶ月ごとに更新しようと思って早くも半年近くが経過しました.過去の研究進捗を眺めてみると何を頓珍漢なことを書いているんだと思う部分がありますが,当時の私にとってそれが限界だったのでしょう.下につらつらと書いた研究進捗も来年読み返してみると何をアホなことを書いているんだときっと思うのでしょう.人は成長するもの,と Kyle Kashuv さんにも伝えてあげたいです.



<これまでの進捗>

東北大学で発表した.オーガナイザーの学生の方々,お世話になりました.発表時間を少しオーバーしてしまった.質問が飛んでくることを想定してもう少し発表内容を工夫したほうがよかったのかもしれない.

・その1週間後,アメリカのピッツバーグにやってきた.食事がワンパターンすぎて若干精神が病んできた.食事のときだけ帰国したい.あと何回パスタとジャガイモとサンドイッチを食べればいいのだろう.なんてことのない牛丼とか味噌汁が食べたい.あとはもやし炒め.

・二相流の Local theory の論文を書きなおして Nonlinear Analysis: Real World Applications に投稿した.個人的には Interfaces and Free Boundaries に投稿しようと考えていたけど諸事情により前者のほうに投稿した.事情はお察しください.アクセプトされるかどうかは査読者次第でしょう.

・外部リプシッツ領域におけるナビエ・ストークス方程式の論文が完成した.これは Patrick Tolksdorf さんとの共同研究である.Geissert et al. の証明のギャップはとても簡単に解決された.ギャップを埋めるために,切り落とし関数を2つではなく1つにしようとか,Bogovskii 作用素の定義からきちんと考えようとか考えていたけど,全く不要だった.まあ,寄り道していろいろなことを学ぶことができたのは良かったと思う.

・勉強したことをまとめてホームページで公開した.ただし,結構勘違いしていたり間違っている箇所があるので,なるべく早いうちに修正します.

・共著論文を Journal of Differential Equations に投稿した.投稿のプロセスは相手に完全に任せてある.アクセプトされますように.

・共著論文の結果を秋の学会で発表することにした.レッツ金沢.

・Geissert et al. の cut-off テクニックが自分の二相流の場合に応用できるか考えてみたけど,ちょっとよくわからない.応用できれば,局所エネルギー減衰評価とかめんどくさい計算しなくても済むのになって思ったけど,注意深い考察が必要そう.個人的には,局所エネルギー減衰評価に頼った証明は optimal じゃないような気がするんだけど気のせいかな.

コリオリ力を伴う圧縮性ナビエ・ストークス方程式について研究した.特に線型化問題の中周波・高周波部分での時空間評価の導出に成功した.高周波部分の解析が思ったよりも難しかった.

・線型化問題の解析が終わったから,もとの非線形の問題について考えたけど,思っていたよりも難しいな.仕方ないので最適(optimal)な結果は諦め,時間局所解の結果は松村・西田の結果を使う方針にした.彼らの論文では初期値を  H^3_x から取っているけど,私の場合はほんのわずかに高い regularity を課さないとダメそう(そういった意味で optimal ではない).どういう iteration を回すのか,どういう解を捕まえたいのかはよく考える必要有.当分はアプリオリ評価をコツコツ導出するのがメインのタスクになると思う.

・Galdi 先生から contact line が存在するようなナビエ・ストークス方程式の自由境界問題を提示された.いろいろ考えてみたけど,たぶん「壁」が垂直じゃないと解けないんじゃないかなあ.Galdi 先生曰く「まだ誰も解いたことのない問題」なので「解けたら君は有名人だ」って言われた.何かちょっとした結果でも出ればすごいと思うんだけど......難しすぎて笑っちゃう.Galdi 先生が今までに何人かにこの問題を投げたことがあるらしいんだけど誰も解いていないらしい.個人的な感想として,難しい点は

① Contact line,contact angle に対する仮定(境界条件)がよくわからない.

② Localization の方法がよくわからない(特に contact line をどのように扱えばいいのかがわからない).

③ 圧力の消去は「ふつうの」second Helmholtz 分解でよいのかがわからない.

④ Dirichlet 境界条件を課した場合,contact line 上で singularity が発生するので工夫が必要.

の4点だと思う.このうち,①と③については Galdi 先生に相談したけど,①に関してはいまひとつ納得しうる回答が得られなかった.①について,「contact anlge が固定されていたら contact line は動かないよね」って質問したら「contact angle は固定でもいいけど contact line は動くよ」って言われた.一応理由は聞いたけど,contact line が動く理由というよりは自由境界が動く理由だったと思う.個人的には「定常問題ではそれでもいいかもしれないけど,時間発展する問題は別じゃね?」って思った.Galdi 先生はこれについて物理的なことはあまり詳しくなさそうだったので自力で調べてみたら,Bothe 先生が最近これについての論文を発表していることをしった.やっぱりContact line が動くなら contact angle は動くじゃんって思った.そうなると問題となるのは contact angle についての発展方程式は何かってことになるけど,単純に contact angle の定義式を微分してこつこつ計算すればいいだけみたいだ.でも,Bothe 先生の論文では rigid wall を平面に取っているから計算が簡略化されているような気がする.まあBothe 先生が導出したモデルを考えるというのも一つの手だと思うけど,次に問題となるのは自由境界に対応する固定境界問題の導出なんだよな.Galdi 先生に表面張力を考慮して考えてねって言われたから,「いつも通り」自由境界問題に対応する固定境界問題を考えるとなるといわゆる半沢変換を考える必要があるけど,それが contact line がある場合でも使えるかよくわからないんだよな.もちろん,自由境界が tubular neighbourhood を許容するというのは納得できるんだけど,自由境界がちゃんと graph 表示できるのか定かじゃない気がするんだよな.そういう点で rigid wall は垂直じゃなきゃいけない気がするんだけど,Bothe 先生らの論文ではさらさら~って書いてあるんだよな.本当なのかな.今度考えてみてよくわからなかったらメールしてみよう.また,この場合,大きな初期値に対する時間局所解を得るためにはかなり工夫しなければいけないというめんどくささもある.②については「通常の」方法を適用するために極座標変換が必要になると思う.たぶん Wilke 先生の論文と Saal 先生の論文が参考になる.③については「contact line 上で圧力はないんだから普通の自由境界問題と同様なのでは」って言われて,なるほどなって思ったけど,細かい点では注意が必要なのだろう.④に関しては,contact line 上では Dirichlet 積分が非有界になるので,多くの論文では slip B.C. を課しているが,Galdi 先生は Dirichlet でやることに意味があるんだと力説していた.たしかに自身の本で言及するだけのことはあるな.唯一 Bothe 先生の論文では Navier-type の slip B.C.(いわゆる partial slip B.C.)を課して,slip と no-slip の場合と比較して考察していた(と思う).多くの物理系の論文で「Dirichlet 境界条件は不適当」って烙印を押されているのに,数学的に解決可能という理由で Dirichlet 境界条件を課して研究を行うってどうなんだろうな.数学者のエゴな気がする.まあ実際に singularity に「勝つ」方法はあるんだけど(実際に定常問題の場合はそういう論文がある).正直自分だけでは手に負えなさそうなので,興味がある人は一緒に研究しましょう.頑張っていい結果出して Annals of Mathematics に投稿しましょう(たぶんそれだけの難しさとインパクトがあると思います).本当に共同研究してくれる場合,メールにてご連絡願います.


<今後の目標>

・学会発表の準備をある程度終わらせる(8月中旬までに).

コリオリ力を伴う圧縮性ナビエ・ストークス方程式について,アプリオリ評価を導出する.たぶん Shibata-Enomoto の論文が参考になる.アプリオリ評価が出来上がったらさっさと論文を書く.秋の学会の直前までに仕上がるのが理想.

・Contact line problem について,Bothe 先生らの論文をよく読み,固定境界に変換するところについてメールを書いてみる.メールの有無に関係なく,理解したらcontact line 上の境界条件と contact angle の方程式をきちんと定式化する.Contact line problem が定式化できたら対応する固定境界問題を導出する.また,圧力の消去を考える.圧力を消去し,考えるべきモデル問題考える.でもモデル問題の解析は(一相問題の場合は)ほぼ出来上がっているので,座標変換を丁寧に考える必要がある.これについて丁寧に考察し,1/4 空間に対応する領域について丁寧に考える.領域の localization まできちんと考察できれば御の字.必要に応じて Galdi 先生にメールする.少なくとも,帰国までにコアになる部分については結果を出す.

・おいしいもの食べてメンタルを回復させる.そのためにはバスに乗って別の地区に出かける必要があると思う.



さて,早いもので2019年も残り半分となりました.先生からは今年中に博士論文書けたらいいね(にっこり)とややハラスメントに近い圧力がかかっているのは内緒です.そんなにさっさと私を大学から追い出したいのでしょうか(たぶんいろいろな事情も絡んでいるのでしょう).まあ,博士論文が書けるかどうかは夏の進捗次第でしょう.今年の夏はある意味学位をかけた戦いとなりそうです.頑張ります.次回の研究進捗は8月下旬を予定しております.では.