べっく日記

偏微分方程式を研究してるセミプロ研究者の日常

関数解析の本。

関数解析」といわれるものは非常に範囲が広い分,その応用も多岐にわたる.しかし関数解析の授業が解析系の分野として扱われるため,学部生のとき,解析系に進まないから勉強しなくてもいいや,という人をよく見かける気がする.

 

大学院に進学してから研究で関数解析を使うことが判明して,いざ関数解析を勉強しようと思っても,関数解析の本はいろいろあり,また本によって載っている事項が微妙に違ったりしていて,独学するには難しい.そこで今回は関数解析の本を紹介することにした.

 

関数解析の参考書としてまず挙げられるのは吉田耕作先生の "Functional Analysis" である.

Functional Analysis (Classics in Mathematics S.)

Functional Analysis (Classics in Mathematics S.)

 

この本はいろいろなことが載っているが,古い本ということもあり,半群の理論についてはほとんど書かれていない.また,証明は行間が広すぎてほとんど参考にならない.良くも悪くも辞書のような本.

 

またゼミで大人気の本としてBrezis 先生の "Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations" が挙げられる.

Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations (Universitext)

Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations (Universitext)

 

ただ,この本もよくわからない上に証明の仕方に癖があり,独学には向かない.一方「読み応えのある」本なので自主ゼミにはピッタリ.

 

実解析への応用を意識した本としてAdams-Fournier の "Sbolev Spaces" が挙げられる.

Sobolev Spaces, Volume 140, Second Edition (Pure and Applied Mathematics)

Sobolev Spaces, Volume 140, Second Edition (Pure and Applied Mathematics)

 

この本は前半にはヒルベルト空間やルベーグ空間などの基本がさらっと書いてあり,Sobolev 空間や補間空間,Lorentz 空間,Besov 空間などについてそこそこ詳しく書いてある.いわゆる「解析系」の研究室に進む人は持っておいて損はない.ちなみに私はよく参照している.

 

和書で有名な関数解析の参考書として黒田先生の「関数解析」が挙げられる.

関数解析 共立数学講座 (15)

関数解析 共立数学講座 (15)

 

いろいろ書いてあり,初めて見たときにはこんなに勉強できないよ,と思ってしまうが,ここに書いてあることは(最低限)すべて勉強すべきことなので,関数解析を独学する場合は,この本をベースにわからないところをほかの本を参照しながら読み進めていくスタイルがよいと思う.ただ,この本はビジュアル的に読みにくい.

 

和書で有名な関数解析の参考書として藤田・伊藤・黒田の「関数解析」が挙げられる.

関数解析 (岩波基礎数学選書)

関数解析 (岩波基礎数学選書)

 

この本は見た目は難しそうだが,説明は丁寧である.先程紹介した黒田先生の「関数解析」の本が嫌だなって人はこっちでもいいと思う.この本の弱点を挙げると,索引が少ないのでわからなかったことを調べにくいことである.この本の後ろのほうは内容が少し難しいので,途中で読むのをあきらめてもいいと思う.

 

私のように授業を全く聞いてなかった人が関数解析を独学するとなった場合,上で紹介した本は少々とっつきにくいかもしれない.そんな人には洲之内先生の「関数解析入門」を紹介したい.

関数解析入門 (サイエンスライブラリ―理工系の数学)

関数解析入門 (サイエンスライブラリ―理工系の数学)

 

この本は「本当に」最小限知っておくべきことがコンパクトにまとまっている.授業の予習にはぴったりな感じだが,期末試験の勉強などには向かないし,レポート書くときも参考にならない.あくまでもさらっと勉強するしたい人向けの本.ちなみにこの本の付録についてあるルベーグ積分はうまくまとまっているのでルベーグ積分を全く勉強したことない人はこの本の付録でルベーグ積分を勉強するのがいいと思う.

 

標準的な関数解析の「教科書」として増田先生の「関数解析」が挙げられる。

 

関数解析 (数学シリーズ)

関数解析 (数学シリーズ)

 

この本は難しすぎず、かといって簡単すぎないので「丁度いい」。関数解析の授業ではこの内容に沿って行われることが多いと思う。

 

増田先生の「関数解析」よりもう少し詳しい本として宮寺先生の「関数解析」が挙げられる.

関数解析

関数解析

 

この本は他の本では省略されている式変形が詳しく書かれていることが多く,「初心者」向けの本である.ただ,用いている記号がやや古い感じがするので,そこさえクリアできれば持っていて損のない本。しかし絶版であるから図書館で借りよう。

 

最近出版された本として山田先生の本が挙げられる。

工学のための関数解析 (工学のための数学)

工学のための関数解析 (工学のための数学)

 

この本は工学向けを謳ってるが、知っておくべきことが満遍なく載っていて、証明もきちんと書いてあるところが多い。カラー印刷だし、結構見やすい。今回紹介した本の中でも一番オススメしたい。誤植が多いという文句がTwitterでチラホラみかけるが、誤植なんてどの本にもあるし、この本に限らず、誤植を訂正する気持ちで読み進めるのがいいと思います。

 

今週の研究の進捗は明日書きたいと思います。では。