べっく日記

偏微分方程式を研究してるセミプロ研究者の日常

研究進捗2019/08/27

早いもので8月も最終週となりました.ピッツバーグの滞在も残り1週間です.もし帰国を1週間ずらせれば群馬で開催されている発展方程式若手セミナーに参加できましたが,私に時間を操る能力もなければドラゴンボールも持っていないし,タイムマシンもまだ開発していないので残念ながら叶うことはありませんでした.同世代の学生や歳の近い先輩や後輩と交流や情報交換できる貴重な機会に参加できないのは本当に残念に思います.来年こそは参加しようと考えています.この調子でいくと,私は隔年に参加する変な人に勘違いされそうです.



<これまでの進捗>

・秋の学会のスライドを作成した.明らかに10分で発表できる量ではないけど仕方ない.

・この結果はポスドクだった Patrick Tolksdorf さんとの共同研究に基づくものであるけど,彼はこの秋からドイツのどっかの大学の Junior Professor になるそうだ(注:日本の准教授とは違う).学位取得して2年で Junior Professor になるのはすごいなあって思う.やっぱり優秀な人は違うなって思った.

コリオリ力を伴う圧縮性粘性流体の解析は,いろいろ勘違いしていた上に,望みたい結果を出せないことがわかったので諦めた.しょうもない結果は得らそうだけど,論文にする価値はない.小さい初期値に対する時間大域解を構成しても何も面白くない.残念.もし初期値を,コリオリパラメータに拠らずに一様に「絞る」ことができればいい結果になるけど,難しいと思う.もしこの場合は空間無限遠方で増大する初期速度場に対する時間大域解を構成することができるようになるけど,私にはわからない.もっと勉強したり,経験をつんでから再チャレンジしよう.

・仕方ないので,ナビエ・ストークス・コルトベーグ方程式の時間大域解の論文を書いて投稿した.あまりびっくりするような結果でもないし,証明に少し不備が見つかったので(指摘していただいたTさんありがとうございます),興味がある人以外は読まないでください.でも,個人的には,イントロだけは面白いかなと思います.

・Contact line problem の定式化は Solonnikov 先生の定常のモデルを非定常に変えるだけで良さそうなことがわかった.Wilke 先生も過去に contact line problem を研究しているけど,彼は自由境界が固定境界(rigid surface)と 90 度に接触しているという仮定を課していて奇妙なので信用できない.実際に,固定境界問題に書き直したとき,自由境界に対応する固定境界は rigid surface と直交するのは明らかだからである.つまり,彼の仮定は「余分」である.また,彼は reflection を用いて解を構成しているけど,証明にギャップがあり,とても信用できない.実際に,Galdi 先生にこのことを聞いたところ,たしかにギャップはあると仰っていた.よって彼の論文は読む価値は十分にあるけど,盲目的に信じてはいけないと思う.要は,証明は正しくないけど,結果は正しいと思う.

・Contact line problem を解決する鍵は "quarter" space,つまり angle が  90^\circ となるような infinite sector 領域で解を構成することである.もし半空間のときと同様に Fourier-Laplace 変換を用いて解表示を行おうと思うと,Mellin 変換が必要になる.具体的には,座標系を極座標系に直して,動径を  x \mapsto e^x と直していろいろ考える必要がある.この場合,微分作用素に指数関数を掛け合わせた作用素が出現する.そうすると Fourier 変換が使えないので,Parseval の等式を使うか,operator sum の方法を使って解析するしかない.しかし,operator sum の方法は半空間の結果に強く依存しているので,contact line problem のように mixed boundary condition の場合には機能しない.したがって,contact line problem に対する  L^p-theory を作ろうと思ったら reflection を考えるしかないように思える.そうすると,考える領域は「まっすぐ」なシリンダーしか考えようがないと思う.でも,このような領域だと自由境界を高さ関数を用いて表現することが可能なので,自由境界問題を扱おうと思ったらこのような領域で考えるしかないと思う.

・もちろん,非圧縮ストークス方程式を扱うので,Helmholtz-Weyl 分解を考えなければならない.Contact line problem の場合は,Laplace 方程式の弱 Neumann 問題ではなく,弱 Dirichlet-Neumann 問題を考える必要がある.特に,Neumann boundary と Dirichlet boundary が「接触」するような場合を考えなければならない.つまり,いわゆる Zaremba’s problem を解かなければならない.領域が Lipschitz である場合は Mitrea-Mitrea によって証明されているけど,contact line problem に応用するには領域が rough 過ぎる.実際に,Lipschitz 領域で考えているので,Sobolev の埋め込みを使うことが難しい.自由境界問題を扱う場合,Sobolev の埋め込みを使えないと話にならないので,彼らの結果は残念ながら役に立たない.

・Köhne 先生によると contact line を許すような領域を weakly singular domain と呼ぶらしい.でも他の文献でこのようなワードを見かけたことがないので,もしかしたら彼のオリジナルワードなのかもしれない.どうやら Simadar-Shor の本(?)に載っているらしいけど,アクセス権がないので何もわからない.帰国したら探そう.

・いずれにしろ,Stokes 方程式の半空間の結果が必要になる.いろいろな文献を読んでみたけど,(線型のレベルでは)解の一意可解性と既知関数に対する仮定は「必要十分条件」になっているべきだと昨日悟った.もちろん,非線型の問題に応用するなら十分条件でいいんだけど,少なくとも完璧ではないなと思った.

・Rigid motion を勉強した.ようやく「初期値が rigid motion と直交する」という柴田・清水の論文の意味を理解した(と思う).説明があまりないのはちょっと不親切な気がする.少なくとも Lagrange transform を使えるような領域ならこのような仮定を考えることができる......くらいは書いたほうがいいような気がする.まあ,相転移が生じているようなモデルの場合は rigid motion を考えることができない(できるかもしれないけど私にはわからない)ということがわかった.

ダルムシュタットからやってきた Mads Kyed 先生の学生と仲良くなった.特に,先週末彼とお出かけして親睦を深めた.私の文法めちゃくちゃな英会話を理解しようとしてくれた彼には感謝しかない.最近まで,英語はとりあえず話の意図が伝わることが大切!とか思っていたけど,そんなことを言っている場合じゃない.さすがに反省したので,なるべく早いうちに英語の勉強・練習を開始しよう.

・彼と自然に触れ合うことでメンタルがかなり回復した.

・彼の誕生日に Galdi 先生と彼と私でとても立派なレストランで食事をした.Galdi 先生ごちそうさまでした.Galdi 先生からたくさんの体験やエピソードを聞けた.大変ためになった.個人的には10回のミーティングより1回の懇親会の方がたくさん(の種類の)情報を得られるような気がする.今後の研究集会ではなるべく懇親会に参加するようにしよう.


<今後の目標>

・秋の学会の発表練習をする.

・11月に RIMS で発表することになったので,その準備をする.

・Contact line problem の線型の理論を証明して,まとめる.できれば時間局所解の存在くらいまで示す.

・去年書いた二相流の有界領域における時間大域解のちゃんと書き直す.

・学振PDで申請する研究内容を考えたり,受け入れ教員を探し始める.

・次の論文をきちんと丁寧に読む:

01. Hideo Kozono, Weak solutions of the Navier-Stokes equations with test functions in the weak- L^n space. Tohoku Math. J. (2) 53 (2001), no. 1, 55--79. MR1808641

02. John G. Heywood, On uniqueness questions in the theory of viscous flow. Acta Math. 136 (1976), no. 1-2, 61--102. MR0425390

03. Giuseppe Mulone and Franco Salemi, On the hydrodynamic motion in a domain with mixed boundary conditions: existence, uniqueness, stability and linearization principle. Ann. Mat. Pura Appl. (4) 139 (1985), 147--174. MR0798172

・次の本で英語の wrting を勉強する.

英語ライティングルールブック第3版

英語ライティングルールブック第3版




毎年秋は何かと忙しいような気がします.たぶん今年の秋も忙しくなるかもしれません.寝不足でぶっ倒れることのないよう,健康を優先して生活しようと思います.次回の研究進捗は10月下旬を予定しております.では.