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べっく日記

偏微分方程式を研究してるM2の日常

よくわかる測度論とルベーグ積分。

今日はとても寒く、秋らしい天気だ。一般に秋になると、「〇〇の秋」という言葉を聞くけれども、〇〇に好きな言葉を入れれば秋らしくなるので不思議である。

さて、趣味のTwitterを眺めていると、測度論がわからないというツイートを見た。私は一応測度論のTAをやっているので、今回は測度論をざっくりわかりやすくまとめることにした。測度論は解析系や統計系では必須の道具である。私は解析系の人間なので、今回はルベーグ積分の基本であるFubiniの定理や単調収束定理、ルベーグの収束定理、積分記号下での微分をゴールに解説をすることにした。

以下、この記事のメニューである。

0.測度論の心

 測度論は一般に難しいと言われる。測度論の授業では抽象的な話がどうしても先行してしまうから、最初の数回の授業で挫折してしまうことが多いようだ(実際私はそうだった)。

 

しかし、ざっくりいってしまえば、測度論の試みは、集合の「サイズ」を測ることである。その「サイズ」の性質や、測り方を数学的に厳密に考えようというのが測度論である。 その測度論を基礎につくられたのがルベーグ積分である。

 

ルベーグ積分は、「へんてこな」関数も積分できるようになる、上手い積分である。ルベーグ積分を導入することによって、例えば2重積分積分順序を変更する際、リーマン積分のときよりもチェックすべき条件が簡単になるというメリットがある。

 

要は測度論という難しい道具を導入することで、いろいろな問題が考えやすくなるということである。

 

1.測度の定義

ここでは測度の定義について扱う。測度とは集合の「サイズ」である。測度の定義の前に測る対象となる集合族の性質(完全加法族)を定める。これを定めておくことでいろいろな議論がスムーズにいく。完全加法族の定義を述べた後に測度や測度空間について定義して最後に測度の性質について述べる。

1-1.完全加法族

\mathcal{S}X のある部分集合からなる集合族とする。\mathcal{S}X 上の完全加法族(\sigma- 加法族)とは次の二つの性質を満たすときをいう。

(1) E \in \mathcal{S} \Rightarrow E^c \in \mathcal {S}

(2) \mathcal{S} の集合列  \{E_j\}_{j=1}^\infty に対し  \displaystyle\bigcup_{j=1}^\infty E_j \in \mathcal {S} .

 

1-2.測度

 \mathcal{S}X の完全加法族とする。写像 \mu:\mathcal{S}\to [ 0,\ \infty ] が次の二つの条件を満たすとき \mu\mathcal{S} 上の測度という。

(1)\mu(\phi)=0

(2)互いに交わらない\mathcal{S} の集合列 \{E_j\}_{j=1}^\infty に対し

   \displaystyle \mu(\bigcup_{j=1}^\infty E_j)=\sum_{j=1}^\infty\mu(E_j)

   が成り立つ。

 

1-3.測度空間

  X を集合、\mathcal{S}X 上の完全加法族、\muX 上の測度のとき、(X,\ \mathcal{S},\ \mu) を測度空間という。

 

また測度空間 (X,\ \mathcal{S},\ \mu) が完備であるとは、E\in \mathcal {S},\ \mu (E)=0 のとき任意の F\subset E に対し F\in\mathcal{S} かつ \mu (F)=0 が成立するときをいう。

 

1-4.測度の性質

以下5つの測度の性質はある意味当たり前な結果であるが、これらは我々の通常の感覚が正しいことを保証する。

 

 (X,\ \mathcal{S},\ \mu) を測度空間とする。このとき(1)~(5)が成り立つ。

(1)E_j\in\mathcal{S} \ (j=1,\dots,N)E_j\cap E_k=\phi\ (j\neq k) ならば

   \displaystyle\mu(\bigcup_{j=1}^\infty E_j)=\sum_{j=1}^\infty \mu(E_j)

(2)E,\ F\in\mathcal{S} かつ E\subset F ならば \mu(E)+\mu(F-E)=\mu(F) である。これより特に \mu(E)\leq\mu(F)である。また \mu(E) < \infty または \mu(F) < \infty のとき \mu(F-E)=\mu(F)-\mu(E) である。

(3)\mathcal{S} の集合列 \{E_j\}_{j=1}^\infty に対して

   \displaystyle \mu(\bigcup_{j=1}^\infty E_j)\leq\sum_{j=1}^\infty\mu(E_j)

(4)\mathcal{S} の集合列 \{E_j\}_{j=1}^\infty が単調増加、すなわち E_1\subset E_2\subset\cdots\subset E_j\subset \cdots ならば

   \displaystyle\mu(\bigcup_{j=1}^\infty E_j)=\lim_{j\to \infty} \mu(E_j)

(5)\mathcal{S} の集合列 \{E_j\}_{j=1}^\infty が単調減少、すなわち E_1\supset E_2\supset \cdots \supset E_j \supset \cdots でありかつ  \mu(E_1) < \infty ならば

   \displaystyle\mu(\bigcap_{j=1}^\infty E_j)=\lim_{j\to\infty}\mu(E_j)

 

2.ルベーグ積分の定義

ここではルベーグ積分の定義について扱う。高校までの積分はリーマン積分と呼ばれるもので、これは考える領域を短冊のように細かく「縦に」分割することで積分を定義した。一方でルベーグ積分は考える領域を玉ねぎのように「横に」スライスし、分割することで積分を定義する。つまり、ルベーグ積分では定義域ではなく値域を分割する。こうすることで、例えば、定義域が \mathbb{R}^N\backslash\mathbb {Q}^N\ (\mathbb{Q}; 有理数全体) のような「変な」関数もきちんと積分できるようになる。

 

 本来ならルベーグ積分に入る前に、外測度やルベーグ測度や可測関数などについていろいろ学習しないといけないが、あんまり気にしなくても先程述べた測度の性質さえわかっていればなんとかなるので、ここでは省略する。

2-1.特性関数

集合 A に対し

\chi_A(x)=\begin{cases}1 \quad (x\in A)\\0 \quad (x\notin A)\end{cases}

と定義する。このとき  \chi_A(x)A の特性関数という。

 

2-2.階段関数

  E_j \ (j=1,2,\dots,N) \mathbb{R}^Nルベーグ可測集合とする。正の実数  a_j E_j\cap E_k=\phi \ (j\neq k) に対して

 \displaystyle \varphi(x)=\sum_{j=1}^N a _ j \chi_{E_ j}(x)

なる関数  \varphi(x) を階段関数という。

(注)\mathbb{R}^Nルベーグ可測集合とは、 \mathbb{R}^N 上で集合で「ちゃんと」測度が定まる、つまり、領域のサイズがきちんと決まるような領域と考えて大丈夫。

 

2-3.ルベーグ積分の定義

 階段関数  \varphi(x) に対して  \varphiルベーグ積分

 \displaystyle\int_E \varphi (x)dx = \sum_{j=1}^N a_j |E_j|

と定義する。ただし、\displaystyle E_j\cap E_k=\phi \ (j\neq k),\ E=\sum_{j=1}^N E_j,\ E\subset \mathbb{R}^N かつ  |E_j|  E_jルベーグ測度(= E_j の体積)である。

 

 \mathbb{R}^N 上で定義された実数値関数  f(x)f(x)\geq 0 \ (x\in \mathbb{R}^N) を満たすとする。f(x) に対しある階段関数の列\{\varphi_j(x)\}_{j=1}^\infty で \displaystyle \lim_{j\rightarrow \infty}\varphi_j =f(x) なるものが存在するとき、f(x) を非負のルベーグ可測関数という。このとき f(x)ルベーグ積分

\displaystyle \int_E f(x)dx=\lim_{j\rightarrow\infty}\int_E \varphi_j(x)dx

で定義する。

 

正負両方の値をとるf(x) に関しては f^\pm(x)=\max(\pm f(x),0) とおき、f^\pm(x)ルベーグ可測関数のとき、f(x)ルベーグ可測関数という。f(x)=f^+(x)-f^-(x),\ |f(x)|=f^+(x)+f^-(x) であり、

\displaystyle\int_E |f(x)|dx < \infty

のときf(x) は Eルベーグ積分可能関数といい、

 \displaystyle \int_E f(x)dx=\int_E f^+(x)dx-\int_E f^-(x)dx

f(x)ルベーグ積分を定義する。

 

f(x)複素数値関数である場合を考える。f(x) の実部、虚部をそれぞれ g(x),\ h(x) とすると、

g(x)=2^{-1}(f(x)+\overline{f(x)}),\ h(x)=(2i)^{-1}(f(x)-\overline{f(x)})

である。g(x),\ h(x)ルベーグ可測関数であるとき f(x)ルベーグ可測関数といい、g(x),\ h(x)ルベーグ積分であるとき f(x)ルベーグ積分という。このとき f(x)ルベーグ積分

\displaystyle\int_E f(x)=\int_E g(x)dx +i\int_E h(x)dx

と定義する。

 

2-4.リーマン積分ルベーグ積分との関係

f(x) と |f(x)|両方が(広義積分も含めて)リーマン積分可能であるならば f(x)  はルベーグ積分可能でありかつ積分値は一致する

 

つまりf(x)|f(x)|両方が(広義積分も含めて)リーマン積分可能であることさえチェックできれば、リーマン積分ルベーグ積分とみなすことができ、3節に挙げる重要な定理を用いることができる。

 

ここで注意すべきことはルベーグ積分可能ならばリーマン積分可能であるとは限らないことである。

 

2-5.almost everywhere

 集合 A の元が高々可算個しかない場合、A の測度を |A|=0 とし、測度が0であるような集合を零集合という。

 

 ある性質 Xルベーグ可測集合 G\subset \mathbb{R}^N のほとんどいたるところで成立するとは、ある性質 X が成立しないような G の点の集合が零集合のときをいい、 a.e.x\in G である性質 X が成立するという。

 

例えば、 \displaystyle \lim_{j\rightarrow\infty} f_j=f(x)a.e. x\in G で成立するとは、 N=\{\ x\in G | \displaystyle \lim_{j\rightarrow\infty} f_j(x)\neq f(x)\} とおくとき、 |N|=0 が成立するときをいう。このとき

 \displaystyle \lim_{j\rightarrow \infty}f_j(x)=f(x)\quad(a.e.x\in G)

と書く。

 

3.重要な定理

ここではよく用いる定理を紹介する。それぞれの定理の証明は大変難しいのでここでは省略する。気になる人は柴田良弘著『ルベーグ積分論』を参照してほしい。ルベーグ積分を勉強するなら和書の中ではこの本が一番。洋書だと Gerald B.Folland 著『Real Analysis』か Elias M.Stein, Rami Shakarchi 著『Real Analysis』のどちらかがおすすめ。個人的には後者の方が読みやすいと思う。

3-1.ルベーグの収束定理

 Xルベーグ可測集合とする。X 上で定義されたルベーグ積分可能な関数列 \{f_j\}_{j=1}^\infty

(1)Xルベーグ積分可能関数 \varphi(x)

   |f_j| < \varphi(x)\quad(a.e.x\in X)

   なるものが存在する。

(2)\displaystyle\lim_{j\rightarrow\infty} f_j(x)=f(x)\quad(a.e.x\in X)

   を満たす。

(1),(2)が成立するならば f(x)Xルベーグ積分可能で

 \displaystyle \lim_{j\rightarrow\infty}\int_X f_j(x)dx=\int_X f(x)dx

が成り立つ。

 

 

3-2.単調収束定理

 非負のルベーグ可測関数列 \{f_j(x)\}_{j=1}^\infty が単調増加列、すなわち、f_j(x)\geq 0ルベーグ可測かつ f_1(x)\leq f_2(x)\leq\cdots\leq f_j(x)\leq f_{j+1}(x)\leq \cdots とする。また  f(x)=\displaystyle\lim_{j\rightarrow\infty}f_j(x) とおく。このとき f(x) は非負のルベーグ可測関数かつ

\displaystyle \int_X f(x) = \lim_{j\rightarrow\infty}\int_X f_j (x)dx

が成り立つ。

 

3-3.積分記号下での微分

 G\subset \mathbb{R}^N,\ \Omega\subset\mathbb{R}^M かつ  G,\ \Omegaルベーグ可測集合とする。関数 F F: G\times \Omega \ni (x,\ \xi)\mapsto F(x,\ \xi)\in \mathbb{R}^{N+M} とする。さらに各 \xi\in \Omega に対し F(x,\ \xi) x の関数として Gルベーグ積分可能であり、各 x\in G に対し F(x,\ \xi) \xi 上の関数として \Omega微分可能であるとする。また、G 上で定義されたルベーグ積分可能関数 \varphi(x) ですべての \xi\in \Omega に対し

\displaystyle\left| \frac{\partial F}{\partial \xi_j}(x,\ \xi)\right|\leq \varphi(x)\quad(a.e.x\in G)

が成立するとする。このとき \displaystyle\int_GF(x,\ \xi)dx\xi_j偏微分可能で、

\displaystyle\frac{\partial}{\partial \xi_j}\int_GF(x,\ \xi)dx=\int_G\frac{\partial F}{\partial\xi_j}(x,\ \xi)dx

が成り立つ。

 

3-4.Fubiniの定理

 G_1\mathbb{R}^Nルベーグ可測集合、G_2\mathbb{R}^Mルベーグ可測集合とする。 f(x,\ y)G_1\times G_2 上で定義された関数とする。f(x,\ y)G_1\times G_2ルベーグ積分可能ならば

\displaystyle\int\int_{G_1\times G_2}f(x,\ y)dxdy=\int_{G_2}\left(\int_{G_1}f(x,\ y)dx\right)dy=\int_{G_1}\left(\int_{G_2}f(x,\ y)dy\right)dx

 

4.終わりに

測度論の講義はFubiniの定理などの重要な定理の紹介や使い方の説明で終わることが多い。Fubiniの定理の後に続く発展的な事項としてはRadon-Nikodymの定理が挙げられる。さらに解析系ならLebesgue空間やSobolev空間の理論やBochner積分、統計系なら確率論等が挙げられるが、それらはどの分野を専門にするかによって必要であったり必要でなかったりするので、何を勉強すればいいかは指導教員から指示があると思う。

 

最後に測度論、Lebesgue積分の参考になる本やサイトなどを挙げておく。また、私が学部4年の前期にLebesgue空間についてノート(PDF)があるのでほしい方は連絡ください。

 

《 参考書 》

・『ルベーグ積分論』柴田良弘著

ルベーグ積分論

ルベーグ積分論

 

 私の指導教員である柴田先生の本。ほとんどいたるところ行間がない(行間がないということはそれだけ悩まずに読み進めることができる)。様々なことがかなり詳しく書いてある。特に本の後半は実解析を意識して書かれている。ところどころ誤植があるが、先生のホームページに訂正や補足についてのPDFが置いてある。

 

 ・『解析入門(6)』松坂和夫著

解析入門〈6〉 重積分/重積分の変数変換/微分形式とその積分/ルベーグ積分 (岩波オンデマンドブックス)

解析入門〈6〉 重積分/重積分の変数変換/微分形式とその積分/ルベーグ積分 (岩波オンデマンドブックス)

 

 定期試験前にざっと勉強したい人はこの本のルベーグ積分の章を勉強するのがいいと思う。薄いながらきっちり説明、証明が書いてある(ただし証明が大変な定理の証明は省略されている)。柴田著の『ルベーグ積分論』がハードだと感じる人はこの本がおすすめ。

 

・『物理・工学のためのルベーグ積分入門』松浦武信,高橋宣明,吉田正広著

物理・工学のためのルベーグ積分入門

物理・工学のためのルベーグ積分入門

 

 少し古い本だけれども、大学の図書館にはあるはず。この本はルベーグ積分とは何か、ということを「ざっくり」わかりやすく語り口調で書かれている。前提とする知識が少ないので、学部1年でも読むことはできると思う。ただし、「ざっくり」とした説明なので、ちゃんと勉強したい人には向いていない。

 

 ・『早わかりルベーグ積分』澤野嘉宏著

早わかりルベーグ積分 (数学のかんどころ 29)

早わかりルベーグ積分 (数学のかんどころ 29)

 

 最近出版された本。早くわかりそうに見えて実は結構難しい。特に証明はクセがあって私は読みにくかった。ただし証明の部分を読み飛ばせばわかりやすくまとまっているので、とりあえず結果だけ網羅したい人はこの本がおすすめ。薄い本の割には中身が濃い。

 

・"Real Analysis: Measure Theory, Integration, And Hilbert Spaces"  Elias M. Stein,Rami Shakarchi 著

Real Analysis: Measure Theory, Integration, And Hilbert Spaces (Princeton Lectures in Analysis)

Real Analysis: Measure Theory, Integration, And Hilbert Spaces (Princeton Lectures in Analysis)

 

 具体例が多くわかりやすい。洋書が苦でなければこの本で勉強するのがいいと思う。特に図が豊富である。柴田著の『ルベーグ積分論』と同様に実解析を意識した構成になっている。柴田著の『ルベーグ積分論』が Fourier Multiplier の理論をゴールとしているのに対して、この本はHilbert 空間の理論をゴールとしている。前提とする知識は少ないので、「超」意識高い学部1年とか2年はこの本にチャレンジしてもいいと思う。

 

・"Real Analysis: Modern Techniques and Their Applications" Gerald B. Folland 著

 はっきりいって難しいが、どんな定理にもちゃんと証明がついている。特にルベーグ積分極座標変換についてきちんと証明が書かれた本はこれだけだと思う。とはいえ、勉強する用の本ではないので、吉田耕作著の "Functional Analysis" と同様に、いざというときの辞書でいいと思う。

 

ちなみに、有名な伊藤清三著の『ルベーグ積分入門』、高木貞治著の『解析概論』はわかりにくいのでおすすめしません。

 

《 ウェブサイト 》

インターネットには測度論のPDFがいろいろ落ちているが中でも慶應大の服部先生のものが一番詳しくわかりやすいのでおすすめである。特に院試の問題についての問題、解答もアップされているのは大変ありがたい。

講義ノート

http://web.econ.keio.ac.jp/staff/hattori/kaiseki1.pdf

・大学院入試問題と解答

大学院入試問題と解答,ルベーグ積分,服部哲弥

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。では。