そろそろ研究の進捗を書こうかなと思ったけど、先日の忘年会で「何書いてるかわからないから、数学わからない人にもわかるように書いてほしい」というリクエストをいただいた。そこで、今日は少し志向を変えて、私が何を研究しているのか、そもそも数学の研究とは何かをざっくりわかりやすく書いてみようと思う。
ブログを見てもわかるように、私の専門分野は「数学」である。数学の分野はざっくり言って、
1. 代数
2. 幾何
3. 解析
4. 応用数理・その他(統計などを含む)
の4分野に分けられるとされている(だいたいの大学の数学科ではたぶんこう分けている)。私はこの中でも「解析」と言われる分野を専攻している。解析の分野は物理現象を記述する方程式を『解析』するのである。
方程式の解析というと何やら難しそうに聞こえるけど、解析の分野の研究は
A. 解析を進めるのに必要な道具の開発
B. その道具を使って新しいことを見い出し、これまでにわかっている事実を改良する
の2パターンに分類されるかと思う。他分野もたぶん同じだけど、あまり詳しくないので、はっきり申し上げることはできない。すみません。ちなみに、最近世間を賑わせている(?)京大の望月先生の abc 予想の解決は上記の A と B の両方を含んでいると思う。イメージとしては、B をやるために A をやる感じ。研究を進める上で少しめんどくさいのは、すでにわかっている道具だけで研究を進められるかどうかわからないということである。従って、私の分野の研究は、A と B のどっちか?とははっきりいうことができない。ただ、私はまだ未熟なので主に B を目指して研究している。
解析では、主に物理現象を記述する方程式の「解」を解析することが仕事になってる。なぜ「解」を解析するのかというと、それが物理現象の「振る舞い」を表現するからである。例えば、天気予報では、『プリミティブ方程式』という方程式のもとに、数値計算をして、それをもって予測をしている(最近では、過去の気象データと統計学も用いているらしい)。この方程式の解がわかるということは、「いつどんな方向に」大気が動くのかがわかるということである。極論を言うと、解がわかれば、天気予報は毎回当たるということである。つまり、天気予報が毎回当たるとは限らないのは、方程式の解がまだよくわかっていないということである。
さて、やや抽象的な話になってきたので、具体的な話をしよう。今回のブログの目的は、私が何を研究しているのか、ということであった。私は今のところ、
・水と水蒸気がごちゃ混ぜになっているもの(水が水蒸気になったり、水蒸気が水になることも考える)
・境界が凸凹しているような水
の2つが主な研究対象で、これらを記述するような方程式の解が「いい性質」を持つことを証明しようと頑張っている。これはそれぞれ、
・海と大気の動き(両方を考える)
・船が浮かんでいる海の動き(船底は凸凹している)
を考えることに相当する。
ここで、「いい性質」とは何か気になるところだけど、簡単に言えば、解が「ちゃんと求められる・定まる」とか、これまでに知られていた結果を拡張するなどである。まあほかにもいろいろあるけど、要は「数学的においしい」内容を追求したいということである。場合によっては数学的に「残念な」結果があることもあるけど、それはそれでちゃんと論文となるので、解析の分野では研究において『捏造』はないと(たぶん)言える。
まあ何やらいろいろ難しそうだけど、すべてこれまでに勉強してきたことの積み重ねになっているわけです。何か特別な魔法を使いこなすわけでもないし、中学や高校で学んだ数学の知識もよく使います。研究には「遺伝子的な才能」はそこまで求められないと思います。それよりも、研究に没頭する『貪欲さ』が求められるのではないかと思います。これは「天才」と言われるテレンス・タオ先生(UCLA)も主張しています。
数学をはじめとする基礎研究は「役に立たない」かもしれない、それよりも研究は「知的好奇心の追求」なんだ、という声をノーベル賞の受賞者の発表の時期になると毎年見かける気がする。それを聞くと、「なるほど、研究とは暇つぶしなのか」と思うかもしれない。しかし、研究というのは「プロジェクト」であって、「暇つぶし」ではありません。つまり、研究にはその目的(意味)とゴールが明確に決まっているということです(最近では予算の関係から期間も加わっていると思う)。最近ノーベル賞を受賞した大隅良典先生の「役に立たない研究をしよう」という発言が話題になったけど、彼は決して「意味のない研究をしよう」とは言っていない。役に立つかどうかはとりあえずおいといて、「意味のある」研究をこつこつと重ねていくことが大事だと思います。
せっかくのクリスマスイブに読んでくれてありがとうございました。では。