べっく日記

偏微分方程式を研究してるセミプロ研究者の日常

よくわかるフーリエ級数。

待望の(?)よくわかるシリーズ第3弾です.今回はフーリエ級数について解説します.また,第1弾,第2弾はこちら.

 

フーリエ級数フーリエ変換は数学のみならず,電気工学,信号処理,音響学,さらには経済学の分野にも応用されるほど,有用な「テクニック」である.しかし,テクニックを理解できていない人は多い気がする.今回は細かいところはざっと飛ばして,フーリエ級数のアイディアなどに絞って解説する.よって数学の厳密なことについては今回はあまり扱わない.詳しいことについては後に挙げる本で勉強してください.また,フーリエ変換ラプラス変換については次回扱います.

 

 

1.フーリエ級数の誕生

フランスの数学者・物理学者であったフーリエ男爵は熱の伝わり方(熱伝導)に関する研究をしていた.彼は次の熱方程式を発見した.

\begin{cases}{\displaystyle\frac{\partial u}{\partial t} -c\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}=0\qquad(c\gt 0)},\\ u(x,0)=f(x),\\ u(x+2\pi,t)=u(x,t).\end{cases}

 

この方程式を変数分離により解く.まず,この熱方程式の解 u(x,t)=X(x)T(t) とおく.ここで,X(x), T(t) はそれぞれ x のみ, t のみの関数である.すぐわかるように,ある定数 \lambda (実数)に対して

\begin{cases}T'+\lambda cT=0,\\X''+\lambda X=0\end{cases}

を得る.この解は,

 T(t)=Ce^{-\lambda ct},

X(x)=\begin{cases}A\cos\sqrt{\lambda} x+B\sin\sqrt{\lambda}x\qquad(\lambda\gt 0),\\A+Bx\qquad(\lambda=0),\\Ae^{\sqrt{-\lambda}x}+Be^{-\sqrt{-\lambda}x}\qquad(\lambda\lt 0)\end{cases}

である.

 

\lambda\leq 0 の場合は面白くないので今は \lambda\gt 0 の場合のみを考える.得られた解のうち,境界条件 u(x+2\pi,t)=u(x,t) を満たすものを求める.この境界条件から,

u(0,t)=u(2\pi,t),\quad u_x(0,t)=u_x(2\pi,t)

が導かれる.すなわち,u(x,t)=T(t)X(x) より

T(t)X(0)=T(t)X(2\pi),\quad T(t)X'(0)=T(t)X'(2\pi)

である.よって,T(t)=0 であるか,あるいは,

X(0)=X(2\pi),\quad X'(0)=X'(2\pi)

である.

 

 T(t)=0 なるときは u(x,t)=0 となる.このような場合を除いた場合,T(t)X(0)=T(t)X(2\pi),\quad T(t)X'(0)=T(t)X'(2\pi) より

\begin{cases}A=A\cos 2\pi\sqrt{\lambda}+B\sin 2\pi\sqrt{\lambda},\\B=-A\sin 2\pi\sqrt{\lambda}+B\cos 2\pi \sqrt{\lambda}\end{cases}

とならなければならない.これは少し書き直すと

\begin{cases}(1-\cos 2\pi\sqrt{\lambda})A-(\sin 2\pi\sqrt{\lambda})B=0,\\(\sin 2\pi\sqrt{\lambda})A+(1-\cos 2\pi\sqrt{\lambda})B=0\end{cases}

となるので,この係数の行列式

(1-\cos 2\pi\sqrt{\lambda})^2+(\sin 2\pi\sqrt{\lambda})^2=0

でなければならないが,それは \sqrt\lambda が整数の場合に限る(もしそうでないならば,任意の A,B が解になる).

 

 このとき,任意定数 A,B に対して

 X(x)=A\cos nx+B\sin nx\qquad(n=1,2,\dots)

である.結局,

u(x,t)=e^{-cn^2 t}(A\cos nx+B\sin nx)\qquad(n=1,2,\dots)

が解となる.

 

ここで, A\mapsto A_n,\quad B\mapsto B_n と書き直して,

u_0(x,t)=A_0,\\u_n(x,t)=e^{-cn^2 t}(A_n\cos nx+B_n\sin nx)\qquad(n=1,2,\dots)

とおく.当然これらも方程式の解である.また,熱方程式と境界条件の線形性より,解を重ね合わせた

 A_0+{\displaystyle\sum^{m}_{n=1}}e^{-cn^2 t}(A_n\cos nx+B_n\sin nx)

も方程式の解である.

 

ここで, m はどんな数でもいいので,m\to\infty として,

u(x,t)=A_0+{\displaystyle\sum^{\infty}_{n=1}}e^{-cn^2 t}(A_n\cos nx+B_n\sin nx)

を得る.この級数が収束するかどうかはとりあえず無視しよう.収束すると期待しよう.

 

最後に初期条件 u(x,0)=f(x) を考えると,

f(x)=A_0+{\displaystyle\sum^{\infty}_{n=1}}(A_n\cos nx+B_n\sin nx)

が成立してなければならない.

 

フーリエ男爵は任意の周期 2\pi の周期関数 f(x) に対して,A_0,A_n,B_n

{\displaystyle A_0=\frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\,dx},\\{\displaystyle A_n=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\cos nx\,dx},\\{\displaystyle B_n=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\sin nx\,dx}

と定めれば,初期条件が成立することを明らかにした.こうして方程式が解けたわけである.

 

すなわち,フーリエ男爵は関数  f(x)級数展開の公式を与えたのである.この級数フーリエ級数なのである.

 

2.フーリエ級数展開の書き換え

オイラーの公式 e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta を思い出せば,先程のフーリエ級数はもっとシンプルにかけるような気がする.級数の表示をもっとシンプルにできれば様々な性質が見えてくるはずだ.

 

 まず  E内積空間とする.まあ,よくわからなかったから,「直交」という概念がある,ユークリッド空間の拡張のようなもの,と考えてもよい.内積空間 E に含まれる 0 でないベクトルの部分集合  S が直交系であるとは,任意の x,y\in S\quad(x\neq y) が互いに直交することである.さらに,すべての x\in S\|x\|=1 を満たすとき,正規直交系という.

 

すぐわかるように,

\phi_n(x)={\displaystyle \frac{e^{inx}}{\sqrt{2\pi}}}\qquad(n=0,\pm 1,\pm 2,\dots)

 L^2([-\pi,\pi]) の正規直交系である.ここで, L^2([-\pi,\pi])[-\pi,\pi] 上の2乗可積分関数の全体である.すなわち,f\in L^2([-\pi,\pi]) とは,ルベーグ可測関数  f(x) に対し, |f(x)|^2[-\pi,\pi] 上でルベーグ積分可能であることを表す.

(注)ルベーグ積分については以下などを参照のこと.


 この観点から,

{\displaystyle \frac{1}{\sqrt{2\pi}}, \frac{\cos x}{\sqrt{\pi}}, \frac{\sin x}{\sqrt\pi}, \frac{\sin 2x}{\sqrt\pi}},\dots

L^2([-\pi,\pi]) で正規直交系をなすことはすぐわかる.この直交系によるフーリエ級数展開は,先程も見たように,

f(x)={\displaystyle \frac{A_0}{2}+\sum^{\infty}_{n=1}}(A_n\cos nx+B_n\sin nx)

となる.ただし,

{\displaystyle A_n=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\cos nx\,dx},\\{\displaystyle B_n=\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(x)\sin nx\,dx}.

ここで,定数項を変えたのは A_n\quad(n\geq 1) と同じ形で表すためである.

 

一方,\phi_n(x) を用いればこのフーリエ級数展開を書き換えることができる.実際,

f(x)={\displaystyle \sum_{n=-\infty}^{\infty}C_n e^{inx}},\\{\displaystyle C_n=\frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^\pi e^{-inx}f(x)\,dx}

である.このとき, A_n,B_n,C_n の間には次の関係式が成り立つ.

 2C_n=A_n-iB_n,\quad 2C_{-n}=A_n+iB_n\quad(n\geq 0).

 

さて次に,フーリエ級数の部分和を考えてみよう.フーリエ級数の部分和を

s_m(x)={\displaystyle \frac{A_0}{2}+\sum_{n=1}^m(A_n\cos nx+B_n\sin nx)}\\={\displaystyle\sum_{n=-m}^{m}C_ne^{inx}}

とおく.ちょこっと計算すればわかるように,この s_m(x)

s_m(x)={\displaystyle \frac{1}{2\pi}\sum_{n=-m}^{m}\int_{-\pi}^{\pi}e^{in(x-y)}f(y)\,dy}\\={\displaystyle \int_{-\pi}^\pi K_m(x-y)f(y)\,dy}.

積分表示に直すことができる.ここで,

K_m(x-y)={\displaystyle \frac{1}{2\pi}\cdot\frac{\sin(m+1/2)(x-y)}{\sin(x-y)/2}}

であり,さらに

{\displaystyle \int_{-\pi}^{\pi}K_m(x-y)\,dy=1}

が成り立つ.

 

フーリエ級数を求めるということは気持ちとしては {\displaystyle \lim_{m\to\infty}s_m(x)} を計算して,これが f(x) に等しいと言いたいが, f(x) が連続というだけでは,これは成り立たない(さらに  f(x)有界変動であるという条件が必要).このように,この s_m(x) はあまり良い「近似」ではないことがわかる.これを解決したのがフェイェールである.

 

3.フェイェールの部分和

ハンガリーの数学者フェイェールは部分和 s_m(x) の代わりに,そのチェザロ平均

\sigma_m(x)={\displaystyle \frac{1}{m+1}[s_0(x)+\cdots+s_m(x)]}\\={\displaystyle \sum_{n=-m}^{m}\frac{m+1-|n|}{m+1}}C_ne^{inx}

を考えた.これをフェイェールの部分和という.

 

これは

 \sigma_m(x)={\displaystyle \int_{-\pi}^{\pi}F_m(x-y)f(y)\,dy}

積分表示に直せる.ただし,

 F_m(x-y)={\displaystyle \frac{1}{2\pi(n+1)}\Big(\frac{\sin(n+1/2)(x-y)}{\sin (x-y)/2}\Big)^2}.

この  F_m(x-y) は先程の  K_m(x-y) と同様に,

 {\displaystyle \int_{-\pi}^\pi F_m(x-y)\, dy=1}

という性質を持つ.

 

詳細は省くが,この  F_m(x-y) は先程の  K_m(x-y) に比べて「良い」振る舞いをする.このため,f(x)連続かつ周期的であれば,一様に

 {\displaystyle\lim_{m\to\infty}\sigma_m(x)=f(x)}

であることがわかる.

 

*このフェイェールの部分和はワイエルシュトラスの多項式近似定理の証明に用いられる.

 

 

この辺のことをもっと勉強したい場合は,

フーリエ解析大全〈上〉

フーリエ解析大全〈上〉

 

をお薦めします.

 

アマゾンのレビューを見ると誤植,誤訳がひどい,とありますが,内容自体はすばらしいものなので,誤植や誤訳を訂正する気持ちで読み進めるのがいいと思います.ちなみに,原著のほうも誤植は多いです.

 

今日は暑いので,これからカキ氷を食べようと思います.では.