べっく日記

偏微分方程式を研究してるセミプロ研究者の日常

研究進捗2021/2/27

早いもので年が明けてから2か月が終わろうとしています.先日(といっても1か月前)2020年度の講義がすべて終了しましたが,大きなトラブルがなく終わったことにほっとしています.教員は給料安いよと言われていましたが,まさかポスドクより安いとは思っていませんでした(当然ながら学振PDよりも安いし,額面でも400万円/年もらっていない).今後はもっと稼げるようにステップアップしていきたいものです.



<これまでの進捗>

有界領域 \Omega \subset \mathbb{R}^n,  n \ge 3, における Chemotaxis-Navier-Stokes 方程式系の時間局所解および時間大域解の一意存在を示した.特に,自明な定常解(定数)が指数安定であることを示した.論文としてまとめて投稿した.


・この研究を進めるうえで,Parameter trick と最大値原理を勉強した.かなり便利な定理だなって思った.やっぱり放物型の方程式は何かと都合がいいんだなって思った.


・一様に剛体回転する流体の安定性に関する論文を先輩に読んでもらった.お忙しい中Sさんありがとうございました.SさんとドイツのKさんから「面白い結果だね」と言われたので,面白い結果なのだと思う.計算が少し間違っていたところがあったので,修正したのちに投稿した.ダメ元でドイツの有名な雑誌に投稿したけど,メンターのS先生が言うには,丁寧に査読してくれるとのことなので,どんな結果でも前向きにとらえよう.投稿してから1か月くらい経っているので,査読に回されていると思いたい.


・九大の若手研究集会で発表した.入試の関係で自室への入室が許可されなかったので,しかたなく自宅で発表した.聴衆の反応はどういう感じはわからなかったけど,結果は「定常解の存在とその安定性」ということだったので,専門外の人にも伝わったような気がする.M先生から表面張力係数の極限  \sigma \to 0 はどうなるのか質問された.たしかに,今までそういうことは全く考えたことなかったので,今後そういうことを考えるのは面白いかもしれない.一方,九大の優秀な後輩F君から回転速度を大きくしたときどうなるのかという質問があったけど,たぶん Solonnikov 先生の論文と同じように安定性はエネルギー汎関数の第二変分によって特徴づけられると思うんだよな. まだ計算していないけど.


・Guo-Tice の論文を少し読んだ.線型理論はかなり省略していて,エネルギー評価をめっちゃ頑張っている印象を受けた.線型理論は本質的には Kondratjev の一般論に依っていると思った.彼のアイディアとしては,極座標を導入して,動径方向に関してメリン変換を施すというものだけど,この方法だと偏角が90度だとしても singularity が現れるんだよな.Köhne さんらの論文を読んだ感じだと,偏角が90度の場合は reflection argument が使えるから singularity は(ある意味)無視できる思ったんだけどな.Slip 境界条件を伴う Navier-Stokes 方程式の場合は Zajaczkowski 先生の論文があるし,その論文では Green 関数が reflection を使って表現しているから,偏角が90度のときは singularity が「消える」と思っていいのかな.Galdi 先生も90度ならば大丈夫と言ってたしなあ.よくわからない.


・Guo-Tice の論文では,velocity の空間の regularity を  W^{2, q},  1 < q < 1 + \varepsilon, としているけど,Helmholtz 分解はどうしているんだろうな.圧力の消去と divergence の方程式を扱うには(弱) Zaremba problem の一意可解性の結果が必要だと思うんだけど,彼らの論文では何も書かれていないと思う.この問題では,Mitrea-Mitrea の論文にあるように,たとえ boundary が滑らかだったとしても  L^q における一意可解性は  q \in (1, \infty) の範囲を制限しないといけないから, q > 1 + \varepsilon としないといけないと思うし,その点で Guo-Tice の論文にはギャップがあるんじゃないかなって思うんだけどそんなことはないのかな.まあ,論文をまじめに読んでいないので,あれこれ文句いうのはやめておこう.まずはちゃんと読もう.


・圧縮性 Navier-Stokes 方程式を(Lagrangian 座標を導入せずに)Maximal regularity で解いた Kotschote さんの論文を読んだ.自分の理解が正しければ,境界に Dirichlet 境界条件があるのが本質的に重要で,少なくとも  u \cdot \nu \ge 0 が必要だと思う.しかしながら,彼の方法を自由境界問題に適用しようと思った場合は,この条件は一般に期待できないから,やっぱり  L^2-framework で考えるか,Lagrangian 座標を使うしかないと思った.メンターのS先生が言うには  L^2-framework でやるしかないとのことなんだけど,そうしたら既存の結果を(ちょっと)違うアプローチで取り組むってだけにしかならないから,論文のインパクトが弱いと思うんだよな.そこで,最近思ったのは,半沢変換によって得られた固定境界問題における解をまず弱い位相で構成し,一度自由境界問題の方に解を戻して,そのうえで Lagrangian を使って additional な regularity を得るという方法.弱い位相での解の構成は,Kotschote さんもやっているし,Hieber 先生らの論文でもやられているので,たぶんできると思う.また,Lagrangian 変換は regularity を上げる効果があるから,additional な regularity も得られると思う.まだ計算していないけど.というより,自分の認識が正しければ,Solonnikov 先生たちの論文でもこうやっていると思うんだよな.


・Space periodic の問題は,メンターのS先生がいうには「〇〇が適用できることはチェックするだけだ」って言ってたけど,そんな単純な話じゃないような気がするんだよな.空間が periodic の場合は Bloch 変換を考えないといけないと思うんだけどどうなんだろう.理解を深めるためにもまずは Barth さんの博論を読む方がいいような気がする.


相転移を伴う圧縮・非圧縮二相流の論文がアクセプトされ,出版された.この結果を time periodic の場合にするのは大したことないと思うけど,興味がないのでやらない.


・優秀な後輩T君の学振DCの書類の添削をした.締め切りまであと3か月あるのにもうほぼ書き終わったらしい(指導教員のK先生からもほぼOKをもらったそう).優秀な人は行動が早いんだなって思った.



<今後の目標>

・Guo-Tice の論文をまじめに読む.できれば3月中に読む終えるようにしたい.


・平衡状態において接触角が90度となる状況がありうるのかを考える(少なくとも重力の影響は無視する必要があると思う).そのうえで,Ren-E の contact boundary condition を伴う contact line problem を考え,時間局所解の構成を目指す.また,可能ならば,方程式系が "well-posed" なのかを調べる.具体的には,接触角付近に singularity が現れるのかを調べ,Köhne さんの予想の検証を行いたい.


・表面張力を伴う圧縮性 Navier-Stokes 方程式の自由境界問題の研究を行う.Solonnikov 先生たちの論文をもう少し丁寧に読んだうえで解析を始める.


・一様に剛体回転する流体の安定性を調べる.まずは,軸対称かつ回転速度が大きい場合について調べる.Solonnikov 先生の論文と被る点が多いかもしれないけど,maximal regularity の観点から彼の結果をとらえなおし,初期値の regularity を optimal なものにするというのは意味のある研究だと思う.


・Chemotaxis-Navier-Stokes 方程式系に対する結果を2種の場合に拡張する.そんなに難しくないと思うので,時間があったら取り組む.


・3月にセミナーを開催するので,その運営を頑張る.



先日、近所の喫茶店にホットケーキを食べに行きました。


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r.gnavi.co.jp


引っ越してきてからかれこれ1年近く経ちますが、家から徒歩圏内(といっても少し歩く)にこの喫茶店があるなら早く行っておけばよかったなと思います。どうやら、ナポリタンも名物メニューだそうなので、今度食べに行こうと思います。そろそろ新年度になりますが、研究室には新M1が1人、ポスドクが1人やってくるので、賑やかになりそうで少し楽しみです。次回の研究進捗の更新は4月末を予定しています。では。