べっく日記

偏微分方程式を研究してるセミプロ研究者の日常

よくわかる Navier-Stokes 方程式。

今日は2016年11月3日.20161103という数字が素数らしいが,特に胸が踊ることはない.ちなみに次素数になる日は2017年1月21日のようだ.

素数日のリスト - NoiseFactory

 

さて,以前こんな記事を書いた.

watanabeckeiich.hatenablog.com

 

Twitter で記事を紹介したところそこそこ反響があった.そこで,調子に乗って,今後「よくわかる〇〇」シリーズの記事を書いていこうと思う.

 

よくわかるシリーズ第2回は Navier-Stokes 方程式について解説したい.理由はいたってシンプルで,自分の研究テーマをわかりやすく説明することで後輩をゲットしたいからである(現時点でなぜか私の研究室には学生が私しかいない).

 

そこで今回は Navier-Stokes 方程式の導出の説明は最小限にして,Navier-Stokes 方程式が何を記述しているのかを説明することにした.

 

【追記:2018年09月24日】

本記事は非常にあっさりした記事となっております.流体力学の観点からきちんと理解したい方は次の記事を参照してください:

watanabeckeiich.hatenablog.com

【追記ここまで】

 

以下この記事のメニューである.

0. Navier-Stokes 方程式とは

Navier-Stokes(ナビエ・ストークス)方程式はフランスの工学者ナビエ(L. M. H. Navier)によって提唱され,様々な数理物理学者たちの考察を経て,イギリスの数理物理学者ストークス(G. G. Stokes)によって定式化された次のような方程式である.

 

\begin{cases} \rho(\partial_t \textbf{u}+ (\textbf{u}\cdot \nabla) \textbf{u})=- \nabla p+\mu\varDelta \textbf{u}+ \rho \textbf{f},\\ { \rm div} \textbf{u}=0\ . \end{cases}

 

Navier-Stokes 方程式は後に説明する非圧縮性流体の運動を記述する方程式である.

 

圧縮性流体に対する同様の方程式もNavier-Stokes 方程式と呼ぶことが多い.いずれにせよ,第1式は流体の運動量保存を,第2式は流体の質量保存を表す.ただし, \textbf{u} は流体の速度ベクトル,p は流体中の圧力, \textbf{f} は外から流体に直接作用する力の総和, \rho は流体の質量密度を表す定数, \mu は粘性係数(定数)を表し, \textbf{u},\ p は未知関数であり, \textbf{f} は既知関数,\mu,\ \rho は正定数とする.粘性係数をゼロ,すなわち \mu=0 としたときの方程式は Euler 方程式と呼ばれ,この方程式の研究も盛んである.

 

Navier-Stokes 方程式は2階非線型偏微分方程式である.Navier-Stokes 方程式の難しさは非線型 (\textbf{u}\cdot \nabla) \textbf{u} と圧力項 \nabla p があることと, \textbf{u} の時間発展方程式だが圧力  p に関してはそうではないゆえに \textbf{u},\ p を同様に扱うことができない点にある.

 

3次元空間における Navier-Stokes 方程式の解の存在とその滑らかさはいまだによくわかっておらず,解けたらクレイ数学研究所から$1,000,000 もらえるらしい.個人的にこの懸賞金が非課税なのかどうかが少し気になる(ノーベル賞のように法律で定められてないからたぶん課税されるのでしょう).「素数の集合の中には任意の長さの等差数列が存在すること」を解決したUCLAの教授,テレンス・タオ先生(2006年フィールズ賞受賞者)はいろんな分野を研究しているが,最近では特にこの Navier-Stokes 方程式について研究しているようだ.

 

1. 流体

流体とは簡単に言えば気体と液体のことである.気体や液体についての力学,すなわち,気体や液体の動きについて数式を用いて考えていこうというのが流体力学である.この流体は大きく分けて圧縮性流体と非圧縮性流体がある.

 

1-1.圧縮性流体

空気のように圧縮できる流体を圧縮性流体という.ここでいう圧縮とは流体の密度が圧力の変化に応じて変化することをいう.高速空気力学はこの圧縮性流体を扱う.

 

1-2.非圧縮性流体

一方,水のように圧縮できない流体を非圧縮性流体という.この場合流体の密度が一定なので  \rho は定数である.よって連続の式,すなわち,質量保存則 \partial_t \rho+{\rm div}( \rho \text{u})=0 より { \rm div} \textbf{u}=0 が従う.これを非圧縮条件と呼ぶことが多い.この非圧縮条件が Navier-Stokes 方程式 を難しくさせる要因の一つになっている.

 

2.物理法則

2-1.Lagrange 微分

非線型項が現れる原因は Lagrange 微分である.Navier-Stokes 方程式の第1式の左辺に現れる \partial_t \textbf{u}+ (\textbf{u}\cdot \nabla) \textbf{u} \textbf{u} のLagrange 微分を表す.

 

Lagrange 微分とは物質微分とも呼ばれ,ざっくり言えば,流体中の分子を追っかけて微分しようというものである.つまり,流体の速度ベクトルを微分をするということは流体の変化をとらえようとしているわけだが,知りたいのは流体がどんな形に変形されるかではなく,流体中の分子がどこからどこに移動したかを知りたいので,速度ベクトルを時間で微分するだけでは不十分なので空間微分もする必要がある.そこで時間の微分と空間の微分を組み合わせた微分が Lagrange 微分である.

 

速度ベクトル  \textbf{u} の Lagrange 微分

\displaystyle \frac{{ \rm D} \textbf{u}}{{ \rm D}t}=\partial_t \textbf{u}+ (\textbf{u}\cdot \nabla)\textbf{u} 

と定義される.ここで  \rm D は大文字であることに注意する.小文字の  \rm d だと「通常」の時間微分を表すからである.

 

2-2.Cauchy の応力原理

ここでは証明しないが,流体(より一般に連続体)に対して Cauchy の応力原理が成り立つ.Cauchy の応力原理が成立する場合,運動量保存,すなわち運動方程式

\displaystyle \rho \frac{{ \rm D} \textbf{u}}{{ \rm D}t} = \rho \textbf{f} +{\rm div} \textbf T

が成り立つ.ここで, \textbf{T} は応力テンソルであり,圧力や支持力のように流体の境界面を通じて流体中の粒子に作用する力のことである.ここで  \textbf{T}N \times N 行列であることに注意する.

 

2-3.Stokes の連続公理

変形速度テンソル  \textbf{D}(i,\ j) 成分を次により定義する.

\displaystyle \textbf{D}=\left(\frac{\partial u_i}{\partial x_j}+\frac{\partial u_j}{\partial x_i} \right)_{1\leq i,\ j \leq N}.

 

応力テンソル  \textbf {T} と変形速度テンソル  \textbf{D} の間に Stokes の流体公理を仮定した場合,

 \textbf{T}=\alpha \textbf{I}+\beta\textbf{D}+\gamma\textbf{D}^2

が成り立つ.ここで \alpha,\ \beta,\ \gammaスカラー関数である.Stokes の流体公理を満たす連続体を流体と呼ぶので,この公理は成り立つと仮定してもよい.

 

非圧縮性流体の場合は Cauchy-Poisson の法則より

 \textbf{T}=-p\textbf{I}+\mu\textbf{D}

が成り立つ.これを先程の運動方程式に代入すれば Navier-Stokes 方程式の第1式を得る.一方,圧縮性流体の場合はややこしくなるのでここでは省略する.

3.Stokes 方程式

流体の速度が遅い場合,すなわちレイノルズ数が小さい場合は非線形(\textbf{u}\cdot\nabla)\textbf{u} を無視することができ,Navier-Stokes 方程式で非線形項を無視したものを Stokes 方程式といい,Navier-Stokes 方程式を線型化したものである.

 

\begin{cases} \rho(\partial_t \textbf{u})=- \nabla p+\mu\varDelta \textbf{u}+ \rho \textbf{f},\\ { \rm div} \textbf{u}=0\ . \end{cases}

 

これに対する研究も盛んであり,この方程式の解について上手くまとまっているのが次の本である.

非線形偏微分方程式 (現代基礎数学)

非線形偏微分方程式 (現代基礎数学)

 

 こう言っては怒られてしまいそうだが,誤植があちこちにあるので,この本でわからない箇所があったら私に質問してください.

 

最後に私の研究について書こうと思ったけども,話がややこしくなりそうなのでまた今度書こうと思う.

では.