修士課程や博士課程の学生というのは,助教や助手,ポスドク等の先輩から学べることが多い,と個人的に考えていますが,新型コロナウィルスの影響で大学に入構できない日々が続いていることもあり,その機会が損なわれている気がします.そこで,今回は志向を変え,自身の博士課程生活を振り返ってみて,自身が意識的に取り組んでいたことなどを書き連ねていこうと思います.といっても,私自身は今年の3月に学位を取得したばかりなので偉そうなことを言える立場ではありませんが,この記事を読む同期や先輩方は温かい目で読んでください.なお,表現が雑な箇所があったりするかもしれませんがご了承ください.なお,以下面倒なので敬体を用いません.
- そもそも私はどんな学生だったか
- まず読むもの
- とにかく頑張る
- まずは修士論文を投稿できるよう頑張る
- 研究に飽きたらどうするか
- 良い論文を読み込む
- 結果はこつこつ出す
- ホームページを作り,Research Gate のアカウントを作る
- 最後に
そもそも私はどんな学生だったか
いまでこそ,偉そうに「よくわかる測度論」とか「よくわかる関数解析」とかいう記事を書いているけど,学部生のころはサークルやバイトに明け暮れる典型的な大学生だった.そのせいかもしれないけど,学部3年生の秋ころにようやく極限の定義(学部1年で習う内容)を理解したし,修士1年の夏ころまでナブラと発散の違いをよく理解していなかった.しかし,なぜか「博士号は欲しい」と考えていた,今振りかってみるとよくわからない学生だった.でも,大学院に進学してからようやくいろいろ理解できるようになった.と,何を言いたいかというと,私はそんなに優秀じゃなかったということを念頭において以下記事を読んでください.
まず読むもの
修士課程や博士課程の学生にありがちな誤りとして,ただ闇雲に頑張るというのが挙げられると思う.もちろん,それが良くないというわけではないけど,あんまり効率的でない......というか,ちょっともったいないな,と個人的に思う.博士課程だけでなく,修士課程の学生にも次の本を強く薦めたい.
研究者としてうまくやっていくには 組織の力を研究に活かす (ブルーバックス)
- 作者:長谷川 修司
- 発売日: 2015/12/18
- メディア: 新書
- 作者:カーネギー, デール,Carnegie, Dale,晶, 香山
- 発売日: 1999/10/20
- メディア: 単行本
これらの本から学べることは多いと思う.というより,かなり参考になった.博士課程の学生はいいから黙って買って読みなさい.また,昔少し紹介したように,テレンス・タオ先生のキャリアアドバイスも大変参考になった.これもいいから黙って読みなさい.
リンク:Career advice | What's new
以下述べることはこのキャリアアドバイスを踏まえたうえでの,自身の体験談がベースになっています.
とにかく頑張る
世界一の数学者(といっても過言でない)テンレンス・タオ先生が Work hard で述べているように,数学に王道はなく,自分の直感と厳密な数学がうまくマッチする段階に到達するためにはハードワークが欠かせない.私はまだこの段階には到達できていないけど,たぶんそうなのだろう.博士課程に進学すると感覚がマヒしがちだけれども,学部時代の同期はほとんどが社会に出て,国や会社,世の中のために一生懸命働いているので,博士課程の学生も彼ら彼女らと同じくらい研究や勉強を頑張らないといけないと思う.修士課程でも少なくとも平日は毎日7~8時間は研究や勉強をすべきだと思う.
とはいえ,頑張りすぎて夜型の生活を送っている人をよく見かけるけど,それはやめた方がいいと思う.普通に考えて,他人と接する機会が失われるし,そうすると気づかないうちにストレスがたまる.何より,もし講義を教える立場になったとき朝起きるのがつらいと思う.今のうちに社会人と同じ生活スタイルで一生懸命頑張るべき.朝起きて夜寝よう.
まずは修士論文を投稿できるよう頑張る
博士課程に進学する(または考えている)人の多くの悩みの種は金銭問題だと思う.特に,日本学術振興会の特別研究員(いわゆるDC)になりたいと考えている人は多いと思う.でも,採用者を見ていると,優秀な人は必ず採用されるというわけではないし,半分くらいは運だと思う.ただ,DCの採用者を見ると,修士論文の内容がどこかのジャーナルにアクセプトされているので,この記事を読んでいる修士課程の学生は,修論の内容をどこかに投稿できるように研究を頑張ればいいと思う.
あまり知られていないけど,日本学生支援機構の第一種奨学金の返済免除の数は年々少しずつ増えているので,金銭面がネックな人も少し思いとどまってほしいと思う.こっちの場合は,頑張りが報われることが多いと思う.
研究に飽きたらどうするか
修士課程では,勉強していないことがかなり多くあり,また指導教員とゼミをすることも多いので,「研究に飽きる」ということはほぼないと思う.ところが,博士課程に進学するとこのようなことが起こりがちである.博士課程では修士課程の研究内容の続き「以外」も研究しないといけない(はず)なので,こうなるのは仕方ないことだと思う.そこで私が提案したいのは「何かしら勉強すること」である.
修士課程時代は,指導教員から掲示(?)された文献を一生懸命理解するのに時間を使ったけど,博士課程では「何を勉強しなければいけないか」を自分なりに探さないといけないと思う.自身の研究のためになるようなことでもいいし,全く関係ないことでもいい.とにかく,研究に飽きた場合は「何かしら勉強する」ことで,時間を無駄にしないことが必要だ.自分の経験上,研究に飽きてしまうのは研究がうまく進まないときで,だいたいそういうときは自分の理解不足や勉強不足だったりする場合が多い.勉強しても研究が進まない場合は指導教員に相談するか,潔くあきらめよう.また,勉強した内容は LaTeX などでまとめ,PDF 化しておき,いつでもどこでも参照できるようにすれば,ちょっとした空き時間に復習することができるので,そのようにしておくのを強く勧める.
良い論文を読み込む
私が博士課程時代を振り返って唯一後悔しているのはこれです.いいジャーナルに載っている論文はいい論文と限らない,とよく言われているけど,真に受けてはいけない.自分が観測している限りでは,いい結果はきちんといいジャーナルに掲載されているし,ふつうの結果はふつうのジャーナルに掲載されていると思う.学生のうちはどこがいいジャーナルかどうかの判断はつかないけど,通常は SCImagoジャーナルランク を参考にすると思う.
特に,解析や幾何などの分野ごとのランキングも表示できるので,参考になると思う.少なくとも数年にわたって Q1 であれば安心だと思う.いい論文はいろいろ勉強になるし,数学だけでなく,論文の書き方も学ぶことができ,一石二鳥である.個人的には,Pruess 先生の次の論文(と本)はもっとしっかり読むべきだった(今読んでいる).
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/03605302.2013.821131
結果はこつこつ出す
まあまあうまくいっている博士課程の学生はこつこつと研究発表しているような気がする.よく「いい結果を出して,いい論文を書くべきだ」と言われるし,私もそう思うけど,博士課程の学生の場合は,時間の制約上,ある程度の妥協は必要だと思う.実際に,業績がないと博士号は取れない(と思う).たしかに,ミレニアム問題のような「大きな」問題を解決できれば一躍有名人になれるけど,研究がうまくいかない可能性が高く,かなりリスキーなので避けた方がよい.D1 のときに O 先生から「大きなプロジェクトと小さなプロジェクト,2つの研究テーマを持つのがよい」という助言をいただいたけど,その通りだと思う.
また,論文の書き方については齋藤宣一先生のホームページにあるメモを参照しよう.
特に,
論文のIntroductionには、考える問題、動機(背景)、結果(の概要)、その新規性、解析方法(の概要)が明快に述べられていなければならない。良い論文はIntroductionが読みやすい論文である
ということを念頭に置こう.
ホームページを作り,Research Gate のアカウントを作る
どこかで研究発表したり,論文が掲載されるようになったら,自身のホームページを開設しよう.これは,大学の先生方が外部向けに公開しているのとは目的が異なり,自分の記録のためになる.実際に,記録をまとめておくと,様々な申請書を書く際に役立つ.また,運が良ければ,講演依頼が来るかもしれない.
自分の結果を他人に知らせるだけでなく,他人の結果を能動的に知ることも研究を進めるうえでためになる.競合する研究グループの研究結果を知っておけば,論文を書く際に,自分の研究結果を客観的に評価できるようになり,論文を面白く書くことができると思う.このためには,Research Gate のアカウントを作ることを勧める.これは Facebook のようなもので,フォローしている研究者が論文を発表したら,それがわかるようになっている.もちろん,arXiv のメーリングリストを使ってもいいけど,量が多すぎて見落とすことがしばしばあるので,個人的にはそこまで推奨しない.
最後に
いろいろ研究のことについて書いたけど,やっぱり大切なのは自分の家族や恋人,友人,そして何より自分の健康だと思う.これらは研究よりも優先すべきだと思う.博士課程に進学すると先生方が参加する懇親会に行く機会が増えると思うけど,お酒の量は気をつけた方がいいと思う.と,わかっているけれどもついつい飲んでしまうので,これは今後の課題ですね.